2016年04月03日

「ミセス クリスティーナ」vol.5

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「ミセス クリスティーナ」vol.5

「久しぶりね。クリスティーナ」

クリスは突然の出来事に身をたじろがせた。クリスにとってこの洗練された女性の存在は「尊い存在」と認識していたからだ。しかも、自分の名前を呼んでいる。この時始めて息が出来ない経験をした。

どれだけの時間が経ったのか。
女性はじっとクリスを見つめほのかに笑みを浮かべている。クリスは気を取り直し、

「いらっしゃい♬どうして私の名前を知っているの?」

女性はすぐさま答えた。

「やっぱりね。クリスは覚えてないよね。私はチルキーの従姉妹よ。あなた達が生まれて6歳までこの町に住んでいたの。いつも一緒だったじゃない」

クリスは薄れつつあるかすかな記憶をたどった。いつもチルキーと一緒だった事。川辺でチルキーと歌を歌った事。チルキーと喧嘩をした事。
いつもわたし達のそばについて来てくれていたお姉さんを、ずっと近所のお姉さんとして記憶に残していた。
近所のお姉さんだと思っていた女性が、実はチルキーの6歳上の従姉妹の「ジーン」だった。

「ジーン?!チルキーの従姉妹?」

クリスの頭は整理がつかなかった。

「おめでとう。18歳になったのね。しばらく、またこの町に入る事になったの。仕事でね。」

クリスの頭はやっと現実に追い付いた。あのジーンとの再会を心から喜んだ。嬉しさのあまりジーンに力いっぱい抱きついたと同時に涙がこぼれ落ちた。

「チルキーが.....」

ジーンは黙ったままクリスをさらに抱きしめた。

−−−−−−−−。

この日からクリスの意識が変わった。自分でも何かが違うと認識していた。
ジーンは毎日のようにカフェに足を運んでくれた。昔一緒に遊んだ話に花が咲いた。クリスは充実していた。
家に帰って、父親へも1週間に一度は家で食事をしようとも伝えることが出来た。

ジーンがこの町に帰って来て5日目。

ジーンはクリスに言った。
「クリス、わたしの仕事を手伝ってくれない?会社はイギリスにあるの。一緒に来て欲しいの」

田舎の農家で育ったクリスにとって、イギリスは大都会でしかなかった。その大都会にジーンが一緒に来ないかと誘ってくれた。
以前のクリスだったら一瞬にして父親の顔が浮かんだが、今回は違った。

「ジーンありがとう。ずっとこういうの待ってたの!だけど3日待って準備するから」

クリスの心は高鳴った。仕事も切り上げ早く行動したかった。
その晩、父親と母親に伝えた。父親はなんとも言えない表情をして部屋から出て行ったが、母親は行ってきなさいと笑顔で言ってくれた。
次の日の晩、チルキーの家に行った。チルキーの母親にお別れを告げ家を出る時に、母親からチルキーが大事にしていたレンゲのブローチをもらった。

そして、3日目の夜。チルキーのお墓に別れを告げた。

「チルキー、わたし社会を変えるわ。」

vol.6へ続く


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2016年04月02日

「ミセス クリスティーナ」vol.4

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「ミセス クリスティーナ」vol.4

ドアの前に立っていたのは、レンゲ色の綺麗な洋服を身にまとい白いつばの広い帽子を被った清楚な女性だった。

アマルフィの田舎の貧しい農家で生まれ育ったクリスにとって彼女のような女性を見た事がなかった。

女性はクリスにそっと微笑みかけ、左手にある4人席にゆったりと腰掛けた。

クリスがドキドキしながら注文を聞きに行った。

「コーヒーでいいかしら?」

女性はまたクリスに微笑みかけ頷いた。緊張でほのかに震える足に意識を囚われながらすっとその場を離れた。

しばらくしてお店が忙しくなり、気が付けば女性はもう帰っていた。

ーーーーーーーーーーーーー

次の金曜日の早朝。

いつものようにカフェの仕事へ出掛た。畑が広がる細い道を自転車で走り、町の風景が見え始めた辺りには一面レンゲの花が咲いている。
クリスは毎日この道を通るのが嬉しかった。それは、チルキーがいつも自分のそばにいてくれる感じがしたからだ。

そんなくつろぎ溢れる時間はすぐに過ぎ街の広い道へと入ってきた。
パン屋があり、父親の行きつけの飲み屋があり、少し行くと花屋があった。

ふと花屋で花を買っている女性に目がいった。

「あっ!この間の綺麗な女性だ!」

その瞬間、なぜかクリスは全力で自転車をこいでいた。自分でも分からなかった。

店に着くとさっきの女性の事は忘れていた。すぐに開店準備をして店を開けた。
この店の店主は、どうやらコーヒー通で豆の取り扱いが厳しかった。

慎重に今日使う分の豆を袋から瓶に移し終える頃、最初の「チャリーン」がなった。

「いらっしゃい♬」

クリスがふと見上げると、先ほどの女性が花束を抱え立っていた。。

女性は一歩また一歩とクリスに近づいてきた。
女性がそっと口を開きクリスに言った。

「久しぶりね。クリスティーナ」

vol.5に続く
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